リビングのようなまちで暮らす
住まいのインタビュー
静岡県東部の三島市は首都圏からの移住者が多く、市町村別の移住者数では常に上位に入る人気のエリアだ。東京へのアクセスの良さはもちろん、富士山を望む自然豊かな環境や、三嶋大社の門前町、東海道の宿場町として栄えた歴史ある街並みも人気の理由となっている。
2020年に東京から移住したIさんもまた、三島のまちに魅了された一人。都内のITベンチャーの広報としてフルリモートで勤務しながら、自然豊かな三島での暮らしを家族と満喫しているという。そこで今回は、地域とのつながりの中で、自分らしい暮らし方、働き方を見つけたIさんのお話を伺った。
リモートワーク導入を機に三島へ

移住のきっかけは、新型コロナウイルスの影響で、勤務先が臨時のリモートワーク体制に切り替えたことですね。一日中狭いワンルームに閉じこもる生活に耐えられなくなり、すぐに移住を検討しました。三島には、当時お付き合いしていた今の夫が先に移住していたので、私も月に1度は通っていたんです。私は学生時代からマリンスポーツを続けていたので、いずれ東京を離れて海の側に住みたいという気持ちがありましたが、この時はとりあえず一旦東京を出るために三島で暮らし始めたという感じでした。でも、自然豊かな三島での暮らしを経験したことで、もう東京には戻れないと思い、1ヶ月後には都内の賃貸を解約し移住を決めました。当時はまだ社内でリモートワークが制度化される前だったので、通勤が必要になってもできる距離ということも三島への移住を決断できた理由ですね。
Iさんは、三島で起業した夫と2歳になる娘さんとの3人暮らし。育児と仕事を両立させながら、三島市の移住アンバサダーと観光アンバサダーを務めるなど、地域活動や副業も積極的に取り組んでいるという。そんなIさんのお住まいは、JR三島駅の南口から徒歩15分の、三嶋大社のすぐ側にある賃貸集合住宅だ。富士山の伏流水が湧き出る駅前の楽寿園や白滝公園。湧水が流れる桜川沿いの風情ある街並み。三嶋大社の鎮守の森。街中に住みながら自然を身近に感じることができる環境は、忙しい毎日を送るIさんにとって、暮らしを豊かにする重要な要素になっている。
新たな出会いが生まれるサードプレイス

今、住んでいる家は、三島で2軒目なんです。このエリアは駅近で環境が良いことはもちろん、私たち夫婦が地域とのつながりを深めるきっかけとなったコミュニティ施設が徒歩圏内にあるので、エリアは変えずに住み続けています。
自宅から三嶋大社を挟んで徒歩10分。Iさんがよく行く場所の一つが、NPO法人みしまびとが運営する「みしま未来研究所」だ。ここは元幼稚園をリノベーションした地域コミュニティ施設で、カフェ&バーやコワーキングスペース、レンタルスペースがあり、さまざまなイベントも行われているという。
夫が移住した時に、最初に夫婦で訪れた場所が「みしま未来研究所」でした。ここで知り合った人たちから地元の人や移住してきた人を紹介していただいて、徐々に地域とのつながりが広がっていきました。ここに来ればいつも誰かと会えるので、子どもを連れて遊びに来ることもありますし、レンタルスペースを利用してママ友やパパ友で集まることもあります。最初はただの利用客として来ていましたが、そのうちボランティアメンバーとして“お店番”をするようになり、今年の7月からは、NPOみしまびとの理事としても関わることになりました。私が三島のコミュニティに入るきっかけとなったこの施設がこれからも持続できるように、少しでも貢献したいなと思っているところです。
暮らしのシーンをまちへ拡張する

フルリモートで働くIさんの+Oスペース*(ワークスペースのこと。以下、+Oスペース)は、娘さんのプレイスペースと同じ、リビングの一角にある。ベビーサークルに囲まれた+Oスペースは、仕事と育児をこなすIさんの工夫の産物であり、子どもの成長の一時期にしか見ることができない愛おしい風景でもある。
平日はここで9時から16時半まで仕事をしています。戸建てのように独立した書斎は設けられないので、生活空間のどこに+Oスペースを確保するか考え、暮らしの邪魔にならず日当たりのいい場所を選びました。日中、娘は保育園に通っていますし、いたとしてもほとんど柵の中に入ろうとはしないので、ここまでする必要はなかったかもしれませんね。リビングで仕事をしていても一人ですし、周囲も静かなので気が散ることがなく快適です。ただ、家が東京より広くなったとはいえ、ずっと家の中で仕事をしているとやっぱり気が滅入ってきます。そこで昼の休憩時間は必ず外に出るようにしています。
Iさんがランチでよく訪れるのが、自宅から徒歩5分の会員制スパイスカレー専門店だ。新しい交流の場を提供する「サードコミュニティ」として運営するお店では、会員になると特典サービスが受けられるため、Iさんもよく利用するうちに顔見知りが増えたという。
キッチンカーが来るみしま未来研究所やカレー専門店でランチをしていると、たいてい仕事や地域活動の仲間と会うので喋りますし、三嶋大社を通って帰宅すると良い気分転換になります。どちらも、ランチだけでなく副業の仕事をするスペースとして利用することもあります。
家とは別に、徒歩圏内に第2のオフィスやリビングがあるみたいな感覚ですね。うちは賃貸物件ですが、屋上に上がれるので、自分のインフィニティチェアを出して、富士山を眺めながら休憩する時もあります。せっかく東京を離れたので、いずれは一軒家に住んでみたいとも思いますが、今は地域とのつながりを感じながら、暮らしのシーンをまちに拡張していくこの住まい方が気に入っています。
出会いから新しい「何か」が生まれるまち

夕方で本業の仕事は終了。家族との時間を過ごし、子どもが寝てからがIさんの副業や地域活動の時間。最近は活動の幅も広がり、夜遅くまでパソコンに向かうこともあるという。
子どもを寝かしつける時に、自分も寝てしまわないようにするのが大変ですね。今はちょっと詰め込みすぎだと思っています。本当はもっと時間にゆとりを持って、夜は好きな映画を観てのんびりしたいですね(笑)。
それでも次々に新しい地域プロジェクトや仕事の話が生まれるのは、東京にはない地域と人のつながり方があるからだという。
東京では、何か目的があってイベントやスクールに参加することが多く、そこからその目的をはずれて関係性が深まることはなかなかありませんでした。三島では仕事やプロジェクトの仲間が、ご近所さんでもあったり、飲みに行ったりキャンプへ行ったりする友達でもあるので、目的もなくふらっと立ち寄った先で人を紹介されたり、そこで話が盛り上がり「何か一緒にやろう」という話になることがよくあります。
私の場合は本業でPR業務を担当しているので、三島のコミュニティに出入りするうちに、自然と地域の皆さんに「PRの人」として認識されるようになり、副業や地域活動のお話をいただく機会が増えました。そういった地域の関係性から生まれる新しいコトやモノが、三島の魅力の一つになっていると思います。
また子育ても、地域の人たちに助けられながら楽しむことができています。週末に夫が仕事でいない時は、周囲の友人たちと集まり、子どもたちを遊ばせることがよくあります。今週末も友人たちと子連れで泊まりのお出かけに行く予定ですが、みんなで子どもの面倒を見ることができるので、夫がいなくても行くことができるんです。
まちに身を置くことで、常に新しい出会いを引き寄せてきたIさん。会いたい人、関わりたいことが増え続けていることが、今のIさんにとって三島に住み続けている1番の理由なのだ。
(*)+O(プラスオー):静岡らしい住まいにオフィス空間をプラスした住環境のこと。「住まい+Office」から静岡県が作成した造語。
Information
所在地 | 静岡県三島市(三嶋大社近辺) |
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形態 | 借家(集合住宅) |
延べ面積 | 64㎡ |